エリートな彼と極上オフィス
だって。
だってこんなすごい人たちに囲まれて。
私は選ばれたわけでも推薦されたわけでも、経験が評価されたわけでもなくて。
何か奇跡が起こって、みんなの手伝いをできる立場に来ることができたんだって、そう思うようにしていた。
先輩が手を止めて、にこっと笑った。
「お前のそういう意識を、次の一年で変えてやりたいなと思ってた」
唐突に、視界が緩んだ。
私自身、まったく意識していなかった私の明日を、そんなふうに考えてくれていた人がいる。
私よりも私のことで、頭を悩ませてくれていた人がいる。
「泣くな、異動くらいで」
「泣いてませんよ、まだ」
言い張る私に、先輩が笑った。
ふと思いついたように、手を伸ばしてキャビネットからコピー用紙を一枚取り、閉じたPCの上で何か書きはじめる。
「なんですか」
「卒業証書。えーと、湯田千栄乃。右の者は、うーん」
賞状っぽく、横にした紙に縦書きで、大きな文字で少し書くと、もっともらしい言い回しを探してか、ペンを止めて考え込む。
その姿を見ているだけで涙がこぼれそうだったので、私は窓の外に目をやって、直視を避けた。
「右の者は、入社早々おかしな部署に配属されたにも関わらず、くじけることなく、持ち前の向上心と好奇心を発揮し」
いかん、泣く。
「IMCに新鮮な風と軽やかな勢いをもたらし、二年間、誰にも代わることのできない役割を、立派に果たしたことを、ここに証します」
ねえ、泣くよこれは、先輩。
先輩の声が律儀に日付を読み上げる。
「IMC代表、山本航、と、はい、卒業おめでとう」
書いた紙をさっと二つに折ると、私のバッグに突っ込んで、先輩は手早くPCを片付け、立ち上がった。
私の涙腺はもはや決壊し、それを見た先輩が、ちょっと困ったような表情になり、それから噴き出して。
「先行ってるぞ」
優しくそう言うと、私の頭を軽く叩いた。
袖口から、かすかに煙草の匂いがした。
だってこんなすごい人たちに囲まれて。
私は選ばれたわけでも推薦されたわけでも、経験が評価されたわけでもなくて。
何か奇跡が起こって、みんなの手伝いをできる立場に来ることができたんだって、そう思うようにしていた。
先輩が手を止めて、にこっと笑った。
「お前のそういう意識を、次の一年で変えてやりたいなと思ってた」
唐突に、視界が緩んだ。
私自身、まったく意識していなかった私の明日を、そんなふうに考えてくれていた人がいる。
私よりも私のことで、頭を悩ませてくれていた人がいる。
「泣くな、異動くらいで」
「泣いてませんよ、まだ」
言い張る私に、先輩が笑った。
ふと思いついたように、手を伸ばしてキャビネットからコピー用紙を一枚取り、閉じたPCの上で何か書きはじめる。
「なんですか」
「卒業証書。えーと、湯田千栄乃。右の者は、うーん」
賞状っぽく、横にした紙に縦書きで、大きな文字で少し書くと、もっともらしい言い回しを探してか、ペンを止めて考え込む。
その姿を見ているだけで涙がこぼれそうだったので、私は窓の外に目をやって、直視を避けた。
「右の者は、入社早々おかしな部署に配属されたにも関わらず、くじけることなく、持ち前の向上心と好奇心を発揮し」
いかん、泣く。
「IMCに新鮮な風と軽やかな勢いをもたらし、二年間、誰にも代わることのできない役割を、立派に果たしたことを、ここに証します」
ねえ、泣くよこれは、先輩。
先輩の声が律儀に日付を読み上げる。
「IMC代表、山本航、と、はい、卒業おめでとう」
書いた紙をさっと二つに折ると、私のバッグに突っ込んで、先輩は手早くPCを片付け、立ち上がった。
私の涙腺はもはや決壊し、それを見た先輩が、ちょっと困ったような表情になり、それから噴き出して。
「先行ってるぞ」
優しくそう言うと、私の頭を軽く叩いた。
袖口から、かすかに煙草の匂いがした。