エリートな彼と極上オフィス
ひったくろうとする手をかわし、さっと背中に隠した。

自分で書いたくせに、往生際悪い。



「ほんとですね?」

「嘘なんか書くかよ」

「当分嫌だ、はどうなったんです」



当然の疑問だ。

先輩はすっかりふてくされたように、壁に頭を預けて、苦々しい声を出す。



「気が変わった」

「なんでまた?」

「知らねえよ、魔が差したんだろ」

「そんな言い方がありますか」

「うるっせえなあ、もー…」



言葉とは裏腹にそのつぶやきは弱々しく、先輩は詰め寄る私から逃げるように、ますます壁と仲よくなってしまう。

いい加減にしてください、とシャツの襟をつかんでこっちを向かせると、むくれた顔はかすかに、赤く染まっていた。

明後日の方角に目をやって、暑くもないのに額の汗を拭うような仕草をする。



「あーもう恥ずかしい、書かなきゃよかった。こういうのって、こんなエネルギー使うもんなの? みんなすげえな」

「そうですよ、先輩はこれまで、甘やかされてたんですよ」

「俺が悪いわけじゃねーもん」

「まだ言いますか」



なんて仕方のない人だ。



「ね、読み上げてください、これ」

「やだよ」

「先輩がそうやってる限り、話が進まないんですが」



私はしつこく尋ねた。



「これ、本心ですね?」

「本心だよ」

「ほんとですか? よく考えました?」

「考えたよ、ここんとこ、脳ミソ沸くんじゃねえかってくらい、そのことばっかり考えてた」



こういうの聞くと先輩って、よくよく真面目なんだなと思う。

こなれた外見からは想像もつかないくらい、真摯で誠実な内面を持っている。

そこがたぶん、最高に素敵なポイント。

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