エリートな彼と極上オフィス
先輩は、目をうろうろさせて「あー…」とはにかんだような曖昧な笑みを浮かべた。



「わかるかも」

「でしょう」

「今もけっこう、そんな状態」

「え」



鞄を床に置きながら、先輩が私の手を取り引き寄せる。

踊り場の白いLED照明の下で、髪から頬へとゆっくり手を滑らせ、あのさあ、と妙に気弱に問いかけてきた。



「俺、あん時、キスした?」

「そりゃもう」

「うわ…」



がっくりうなだれ、ごつんと上からおでこをぶつけてくる。

頭の後ろで、先輩の手が組まれるのを感じた。



「覚えてないですか」

「ん…」

「一晩中、ひっきりなしでしたよ」



甘えるみたいに、おでこというか、鼻のつけねあたりをぐいぐいと押しつけられる。

痛たた。



「私はよく覚えてますよ」

「忘れたふりしろよ」

「なんでまた」

「俺だけ初めてみたいで、癪じゃん」



ふてくされた声と一緒に、一瞬のキスが来た。

ぺたっとくっつけるだけの、じゃれるようなキス。


言葉のとおりの、不満そうな目つきに笑いそうになる。

もう一度、今度はもう少ししっかり唇が重なった。

だけどどうにも落ち着きなく、何度か噛んだと思うとすぐあっちこっちにキスが移る。


こらえきれず笑ってしまった。

私は知っている、これは先輩の癖だ。

そうか、酩酊状態だったからってわけじゃなく、いつもこうなんだ。

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