エリートな彼と極上オフィス
「何がおかしいんだよ」
「先輩の心臓、すごいドキドキ言ってます」
「この状況なら、言うだろ、普通」
「私は前回、言い尽くしましたんで」
前を開けたスーツの下、薄いニットの胸に手を置くと、びっくりするほど速い鼓動が伝わってくる。
これは本当に、私より緊張しているかもしれない。
「それ、俺じゃなかったんじゃねえかな?」
「そういえばハメられ撮りというものをしてみたのですが、ムービー見ます?」
「何考えてんだ、変態!」
嘘ですよ、となだめた。
さすがの私も、そんな余裕なかった。
今思えば、撮っておいてもよかった気はするけれど。
先輩の両手が、優しく私の頭を引き寄せて、腕の中で私は、たゆたうようなキスを受けた。
ふわふわ甘くて、あったかくて柔らかくて、このまま眠ってしまいたいような幸せなキス。
目を開けると、胸が痛くなるほど好きな顔がそこにあって、これまたとろけるほど優しい目で私を見ているのである。
夢だったらどうしよう。
「先輩、好きですよ」
現実だよねと確認したくて、そう言ってみたら、自分で自分の胸を突いたような痛みが襲った。
急激に満ちた幸福が、勢い余って心臓を破ったみたいに。
悲しくないのに涙が出る。
先輩がちょっと驚いた顔をして、丁寧に頭をなでてくれた。
「ほんとに好きです、先輩」
「うん」
うつむいた私の頭に、落ちてくるキス。
優しい感触の後に、ふうっと熱い息が髪に吹き込まれる。
何かと思ったら、ため息だったらしい。
「また悩み事ですか」
「俺も湯田みたいに言ってみたいんだけど、恥ずかしくて無理だーと思ってたとこ」
「そんな、私が恥知らずみたいな」
「勇敢だって話だよ」
「それ、榎並部長にも言われました、この間」
「他の男の話すんな」