エリートな彼と極上オフィス


「そっかあ、山本は湯田ちゃんのもんかあ」

「はあ、いい響き」

「じゃあ湯田ちゃんは?」

「それは訊いてみないと」



なあ、とコウ先輩がうんざり私たちを見る。



「おかしくねえ? だだ漏れすぎじゃねえ?」

「俺と湯田ちゃんの仲のよさを、なめてたな」

「仲いいとかいう問題じゃねーだろ、千明がこんな細部まで知ってんの、どう考えてもおかしいだろ」

「湯田ちゃんを責めるな、俺が根掘り葉掘り聞き出したんだ」

「いいや、湯田は自分に言う気がなければ、どれだけ突っ込まれても口を割らない。ある程度自発的にバラしたはずだ」

「当たりです」



ものすごいにらまれた。

いいじゃないか、嬉しかったんだもの、私だって共有する相手が欲しい。

それに、千明さんのほうが知りたがっていたのは本当だ。



「共有するなら、せめて自分に気がない奴にしろよ、ややこしいだろ、よりによって千明なんて」

「俺そのへんおおらかだから歓迎。むしろ俺の知らないところで進行されるほうが嫌だね」

「俺は逐一お前に知られる理由ねえんだけど」

「じゃあ何もしなきゃいい」

「おかしいだろ!」



知らなーい、と千明さんはどこ吹く風で資料をめくる。

こんな彼だけど、コウ先輩から私たちの顛末を聞いた時は、落ち込むなあ、とこぼしていたらしい。



『千明には俺から伝えるよ』



そう先輩が言った時、その真剣な声に、私は千明さんが本気だったことと、先輩もそれを知っていたことに、ようやく気づいたのだった。

そして申し訳なく思うのと同時に、罪深くも、とても嬉しいと素直に感じた。


それは、人の好意というものがかくあってほしいという、私の勝手な願いのせいかもしれない。

好きという気持ちは、たとえそれが一方通行であっても、決して悪いものじゃない。

人並みに恋心というものを経験して、私はそう思いたいと、思ったのだ。

< 163 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop