エリートな彼と極上オフィス
「そっかあ、山本は湯田ちゃんのもんかあ」
「はあ、いい響き」
「じゃあ湯田ちゃんは?」
「それは訊いてみないと」
なあ、とコウ先輩がうんざり私たちを見る。
「おかしくねえ? だだ漏れすぎじゃねえ?」
「俺と湯田ちゃんの仲のよさを、なめてたな」
「仲いいとかいう問題じゃねーだろ、千明がこんな細部まで知ってんの、どう考えてもおかしいだろ」
「湯田ちゃんを責めるな、俺が根掘り葉掘り聞き出したんだ」
「いいや、湯田は自分に言う気がなければ、どれだけ突っ込まれても口を割らない。ある程度自発的にバラしたはずだ」
「当たりです」
ものすごいにらまれた。
いいじゃないか、嬉しかったんだもの、私だって共有する相手が欲しい。
それに、千明さんのほうが知りたがっていたのは本当だ。
「共有するなら、せめて自分に気がない奴にしろよ、ややこしいだろ、よりによって千明なんて」
「俺そのへんおおらかだから歓迎。むしろ俺の知らないところで進行されるほうが嫌だね」
「俺は逐一お前に知られる理由ねえんだけど」
「じゃあ何もしなきゃいい」
「おかしいだろ!」
知らなーい、と千明さんはどこ吹く風で資料をめくる。
こんな彼だけど、コウ先輩から私たちの顛末を聞いた時は、落ち込むなあ、とこぼしていたらしい。
『千明には俺から伝えるよ』
そう先輩が言った時、その真剣な声に、私は千明さんが本気だったことと、先輩もそれを知っていたことに、ようやく気づいたのだった。
そして申し訳なく思うのと同時に、罪深くも、とても嬉しいと素直に感じた。
それは、人の好意というものがかくあってほしいという、私の勝手な願いのせいかもしれない。
好きという気持ちは、たとえそれが一方通行であっても、決して悪いものじゃない。
人並みに恋心というものを経験して、私はそう思いたいと、思ったのだ。