エリートな彼と極上オフィス

「我ながら軟弱な理性で、嫌になる」

「捨てちゃってください、そんなもの」



横たわって、手を繋いで、先輩の体重を感じながらするキスは、期待感に満ちていて、とてもいい。

あれだけ帰れ帰れ言っておきながら、先輩のキスがどことなく甘え気味なのが、またいい。

長い指が熱くほてっているのが、さらにいい。



「知らねーよ? 俺、今日も酒入ってるし、また調子乗って雑なことしちまうかも」

「そこまで飲んでないですよね?」

「やってるうちに酒が回るみたいで…」



よっぽど自制心に自信がないのか、先輩が不安げな顔をする。



「いいですよ、雑だろうが乱暴だろうが」

「でもお前、慣れてないのに」

「相手が私だって認識していてくれさえすれば、どう扱っていただこうと、構わないです」

「俺、そんな感じだったのか」



愕然とした声と、ぎゅうっと力がこもった手から、先輩の受けた衝撃が伝わってきた。

あらら。



「前回は前回ですし、そんなに気に病んでいただく必要は」

「好きだよ、湯田」

「は…」



思わず、ぽかんと見上げてしまった。

いえそりゃ、いつか言ってほしいなと思ってはいましたが。

さすがに、いきなりすぎやしません?


先輩はどうやら真剣で、ほんとだから、と念を押す。



「俺が何しても、それだけは信じてて」

「何かする気なんですね」

「しないけど。頑張るけど。もしもの話」



必死さに圧されて、はい、とうなずいた。

ふたりの間にあった布団がはがされて、肌寒さを感じる間もなく、先輩が上からぎゅっと抱きしめてくれる。

先輩の骨と、筋肉の重み。



「信じてます」

「うん」



もう一度、好きだって言ってくれないかな。

けど先輩はたぶん今、それどころじゃないだろう。

汚名返上、名誉挽回。

そのあたりのことしか、頭にないはずだ。

邪魔しないでさしあげよう。

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