エリートな彼と極上オフィス
なんということか。

嘘でもいいから嘘だと言ってほしい。

だがしかし、窓の外は明るい。



──月曜だ!!



「ええと、家まで走って着くのが半で」

「落ち着け、走るのは駅までだ、家はさすがに遠い」

「あっそうか、えーと電車の待ち時間でメイクすればよくて」

「家に帰ってシャワー浴びるんだろ?」

「先輩、私はもうダメです」

「大丈夫だって、俺の見立てでは間に合うから、早く行け」



混乱して泣きそうになりながら、あたふたと服を着る私を、先輩が心配そうに見守る。

月曜朝イチは、部の全体会議なのだ。

新入りの私が遅れるわけにはいかない。


昨日、もう少しかっちりした服を着ていさえすれば、最悪このまま出社できたのに!

よりによってデニムなんてものを選んだ自分を呪いながら、なんとか着替えを済ませて、部屋を飛び出した。



「お邪魔しました!」

「湯田、忘れてる、忘れてる!」

「ああ!」



携帯だけ握りしめていた私に、先輩がバッグを持ってきてくれる。

これまためんどくさいレースアップの靴を履きながら、それを受け取った。



「間に合うから、落ち着け」

「はい」



寝ぐせで乱れた頭でも、ボクサーパンツにパーカーを引っかけただけでも、かっこいい人はかっこいいのだ。

よく見れば気づく程度のまばらな髭がまた、匂い立つように男の人っぽく、色っぽい。



「では、失礼します」



ぴっと敬礼する私を、先輩が笑った。

二本の指で、同じく敬礼めいた仕草で返してくれる。


畜生、かっこいい。

朝からときめいてしまった胸をなだめて、日に日に気温が高くなる、4月の空の下に出た。

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