エリートな彼と極上オフィス
昼間の太陽が、ガラス越しに先輩を照らす。

光が当たると先輩の眼は、濃い茶色なのがわかる。

まことにハイレベルな目鼻立ちのせいで、ハーフなのって訊かれているところもよく見る。



「お前のこと、すごく大事だと思ってる、わかる?」



その瞳と目が合って、私はジュースを口からこぼしそうになった。

まずい、腫れが進行しすぎて、唇の感覚がなくなってる。



「打てば響くっていうか、テンポ合うなって思うし、刺激受けるし、正直誰かと働くのがこんな楽しいって、お前が来て初めて知った」



目を瞬かせた私が、話を理解していないと思ったらしい先輩は、少し首をかしげて、残念そうな顔をする。

先輩、私、全部聞いてます。

聞いてますよ、全部。



「…お前の気持ちは嬉しいんだけど、俺としては、そういうのなしに、これまでどおり一緒に仕事したいんだ」

「へんうぁい…」

「都合よすぎだろって、我ながら思うけど。でも俺なりに考えて、今の気持ちって、そんな感じなんだ」



ああ、どうして。

こんな時に、まともに喋れないんだろう。


ごめんなさいって言いたい。

ありがとうございますと伝えたい。


こんなまっすぐな人に、好きなんて口をすべらせて、困らせて、悩ませて。

冗談めかして濁すこともできたはずなのに、この人は、あの勢いしかなかったような一言をちゃんと受け止めて。

困って、悩んでくれた。


わかりますよ、先輩。

私になんて説明しようか、本当に本当に考えたんでしょ。

ごめん、とあの場でそれしか言えなかったことを、ずっと気にしてたんでしょ。



「お前のこと、大事、それじゃダメかな」



茶色の目に、自分が映っているのを見た。

ダメなものですか。

それこそ私が欲しかった言葉です。

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