エリートな彼と極上オフィス
先輩には、そこにいてほしい。

私をあくまで、職場の後輩として見る、先輩でいてほしい。

そんなあなたに惚れたのですから。



「おい、頼むよ…」



先輩が途方に暮れるのを見ながら、私はストローをくわえたまま、視界が潤むに任せた。

たぶん涙はこぼれないだろう。

そのくらいの良識と根性はある。



「なんで泣くわけ」



だって私は、失恋したんですよ。

生まれて初めての失恋を。

そこそこ幸せな失恋を。


今だけ乙女心に浸らせてください。

昼休みが終わったら、元に戻りますから。


先輩はおろおろするかと思いきや、さっと紙ナプキンを取って、私のほうへ手を伸ばした。

まるで子供の鼻が出ているから拭くみたいな、さも当然のような仕草が、彼らしいと思った。



「俺が嫌で泣いてるんじゃないよな?」



たぶん半分冗談で、半分本気で心配してる。

つい笑うと、弾みで転がった涙を、先輩が拭いてくれた。





その瞬間。

私は絶叫した。








その夜、久しぶりに先輩からメッセージが来た。



【どうよ?】

【薬で落ち着いてます、お騒がせしました】

【抜くの?】

【削った上から差し歯で済むそうで】

【歯磨けよ】


< 21 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop