エリートな彼と極上オフィス
「資料出しますね、そろそろお日様が恋しいですねえ」
「俺、乾燥機買いたくてさ、シールド忘れんなよ」
「ONにしました、部屋干しも限界ですよね」
「タオルを速乾性に替えたら少し楽になった、プロジェクタのアジャストもな」
「がってんです、そんなタオルがあるんですか」
IMC室の廊下側は、天井までのガラスがはまっており、中が丸見えだ。
当初は、秘書室か、と思わなくもなかったけれど、最上階という場所柄、人通りも少なく、すぐ慣れた。
そしてこのガラスには秘密がある。
スイッチひとつで、一瞬のうちに曇りガラスになるのだ。
IMC室の性質上、どうしても社内に知られたくない話をするし、機密資料も扱う。
そういう時はこのシールド機能を使い、ドアに鍵もかける。
"立ち入り禁止"の印だ。
私を除くチーム11名と広報部数名が、部屋の前方のホワイトボードの見える位置にテーブルを移動させた。
ホワイトボードには、先月実施した社内意識調査の結果が映し出されている。
総括すると、中の上、くらいの調査結果だ。
「じゃ、各項目の検証をしよう、湯田さん、進めて」
「はい」
千明さんのお手伝いとして調査に関わった私は、室長の命でひとつひとつ結果と、想定値との差と、考えられる要因を説明する。
ちなみにこの室長はCMOといって、この会社の、マーケティングの最高責任者である。
すなわち、かなり権力のある人だ。
「全体的に、開発部門の理解が低いな」
「自由記入欄を見るに、研究を制限されるのが嫌だと」
「彼らはIMCの導入で、すべての商品がマーケットインの考えで決められ、自分たちの信じる研究ができないと思っているんですよ」
メンバーの発言に、バカバカしい、と岩瀬(いわせ)CMOは吐き捨てた。
元は国内マーケティング部門の長だった人だ。
すらっとスマートな50代で、ほんとかどうか知らないけれど、次の社長と言われている。