エリートな彼と極上オフィス
まったく、とぶちぶちぼやいてから、先輩は私を見た。



「その点、お前はしっかりしてるよなあ」



先輩。

私は昨日、いくつかのことを試しました。

その結果、わかったことがあります。


ひとつ、先輩は鈍い。

あれだけ露骨な中川さんからの秋波に、まったく気づいていないなんて、そっち方面の感度が悪いとしか思えない。


そしてつきあいがいい。

きっとお願いすれば、買い物だろうと映画だろうとカラオケだろうと、言うままに同行してくれるだろう。

たとえそれが、彼女でもない女子からの誘いでも。


それから、これは教訓。

男の人にとって、自分と同じポリシーを持つ女、すなわちかばったり守ったり助けてやったりしなくていい女は、女の部類に入らない。

そして私は、中川さんのようにはなれない。



「俺、コンビニ寄ってくわ」

「あ」



私も、と言いかけて、やっぱりやめた。

一瞬、不思議そうに首をかしげた先輩が、にこっと笑って傘を渡してくる。



「後でな、これサンキュー」



ガラスドアを抜けた先輩が、誰か知り合いを見つけたらしく、片手を上げるのが見えた。

会社に向かいながら、考えた。


もう恋なんてしないとか、痛いとか苦いとか、みんなが口々に言う訳がわかった気がする。

ほんと、痛くて理不尽で、苦々しい。

なのに、やめようと思ってやめられるわけでもなく。

これは被害者ヅラしたくもなる。



さて。

どうする、私?



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