エリートな彼と極上オフィス
次々みんなが火をつけると、あたりは火薬の匂いが立ち込めた。

小さな頃身近にあったわけでもないのに、不思議と懐かしく感じる匂い。

私は程よくほとばしりそうな一本を選び、セメントのたたきに固定されたろうそくで火をつけた。



「消えるまでに3回願い事書けたら叶うとか、言ったよな」

「どこの女子ですかあ」



いい年した大人が、そんな会話をしていると笑ってしまう。

試しに人のいない中空に向けてくるくると花火を回してみると、なるほどちょっとした文章くらいなら書けそうな気がする。

ふむ。



「俺のこと書くなよ」



突然真後ろから、ひそめた声が鋭く飛んできた。

びっくりして振り向くと、先輩が立っていた。

目が合うと、あ、と驚いた顔になり、それがこんな暗さでもわかるくらい、みるみる赤くなっていく。

ついには、ごめん、とつぶやいて、顔を覆ってしまう始末。



「…書きませんよ、こんなところで」

「だよな、ほんとごめん、悪い」



ごめん、と頭を抱えてしゃがんでしまう。

その隣に私もしゃがみこみ、耳元に吹き込んだ。



「そういうことするから、好きなんですよー」



他の人には聞こえないよう、そっと。

でも先輩には聞こえるよう、はっきりと。


腕の間から、じろりとにらんできた。



「お前、なんなんだよ、最近急に」

「我慢しないことにしたんです」

「なんで?」



我慢しても誰にもいいことないってわかったからです。

もう二度と言わないって、最初に言った後、思ったけど。

それでも私は先輩を好きなままだろうし、先輩もそれを感じざるを得ないだろうし。

だったら出しちゃったほうが、双方ストレスがないかなと。

< 37 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop