エリートな彼と極上オフィス
『山本、お前、もてるだろ…』
『俺もそう思った、女はこういうの好き、絶対』
え、え、とついていけずにいる先輩をよそに、厨房内は、これはもてるわーの声一色になり。
それを受けての、冒頭のやりとりだ。
要するに、本当かどうか本人に訊いてみようと思ったのだ。
一連の流れを知った千明さんが、改めてあぜんとした。
「お前、あれでなんの絵描けるんだよ」
「え、千明は知ってた?」
「知ってたよ、なんだその、程よいバカさ」
「バカって言われるほどの話じゃねえだろ」
なあ、と同意を求められたけれど、とっさに返せない。
確かに、日頃のパリパリした働きぶりを見ていると、なんでそこだけすっぽ抜けてんですか、と突っ込みたくなる。
「大変だね、湯田ちゃんも」
「なんで湯田が大変なんだ」
「大変だね、ほんと」
同情的な目を向けられる。
あれ、私、千明さんに知られるほど露骨に先輩を好きだったっけ。
まあいいや。
「うわっ、夏ですねー」
「何を今さら」
表に出ると、真上に来た太陽がアスファルトをなぶっていた。
長かった梅雨も、これで終わるだろう。
「海に行きたくはないですが、天然の水に浸かりたいですね」
「めんどくさいけど、わからなくもない注文だな」
「渓流行けば?」
千明さんの提案に、おお、と私たちは声をあげた。
伸びをしていた私は、両腕を広げたまま先輩を振り返る。