エリートな彼と極上オフィス
なんでこうなるんだか。
世の中うまくいかない。
いや違う、わかってる。
またしても私がバカだっただけだ。
ちっ。
「なあ、湯田ちゃんがやさぐれてるけど、どうしたの」
「え? おい出るぞ」
「はい」
気遣わしげな千明さんに会釈を返し、コウ先輩を追って慌ただしく部屋を飛び出す。
今日はこれから、CFTマネジメントとやらのセミナーだ。
CFTとはクロスファンクショナルチームの略で、要するに部門を超えて人を集めた社内横断チームのことだ。
「本当ならIMC全員が参加したいくらいの内容なんだがな」
「時間的になかなか厳しいですもんね、完璧な報告書にしなきゃという気合いで燃えます」
「あ、それだけど」
地下鉄への階段を駆け下りながら、先輩が私を指差す。
「お前が一人でつくってみろって、岩瀬さんからお達し」
「え!」
「俺もサポートするけど、まあお前ならできるよ、岩瀬さんもそう思っての指示だろ」
あわわ。
私は突如、プレッシャーに頭が真っ白になった。
今、私たちはIMC室の下部組織として、社内の要所から人を集めた横断チームを作ろうとしている。
俗に言う社内プロジェクトで、IMCの考え方や指針を、具体的な実行計画に落とし込むのが命題だ。
そのためにはそういう組織のマネジメント方法や、成功例、失敗例を学ぶ必要があり、積極的に情報を仕入れているところだ。
今回のセミナーもその目的。
つまり先輩と私は部署を代表して行くわけで、ここで得た知識を間違いなく持って帰り、シェアしなければならない。
「ろ、ろ、録音とかしたほうがいいですかね」
「いらない。書き起こしには録音時間の2~3倍の時間がかかるんだぜ、どこにそんな暇があるよ」
「でも、私のメモなんぞでは」
「どうしたんだよ?」