エリートな彼と極上オフィス
「ごめん、言いすぎた、心にもないこと言った」
「ちょっとはあるから、言葉が出てきたんですよ」
「そう言わないでくれ」
「別に責めてるんじゃなく。ああ思うのは当然です、それを認めなかったら、先輩はくたびれるばかりです」
「ほんとにあんなこと思ってない、なあ湯田、泣くな…」
かろうじて口先だけはいつもどおりを装っていたものの、先輩の言うとおり、私はみっともなくも、ぼろぼろ涙をこぼしていた。
先輩が、言葉をかけかねたみたいに、困った顔をする。
こんな顔させて、私は本当にダメな後輩だ。
「先輩は悪くないです、全部私で」
「お前だって悪くないよ、ただ俺、どうしたらいいのかほんとにわかんないんだ、なんでお前が変なのかもわかんねえ」
「私もわかりません」
「でも俺よりは、わかるだろ?」
ヒントくらい出ない? と言われ、つい真剣に考える。
走ってきたらしい先輩は、まだ少し息を荒げている。
その顔を見ていたら、胸の奥の奥に激痛が走った。
そりゃもう、一瞬呼吸が止まるほど。
中川さんと、どんな休日を過ごしましたか。
私と出かける予定は、もう期待しちゃダメですか。
訊きたいことはあるけれど、口に出したら、それで全部のように思えてしまいそうで、嫌だった。
何か言わなきゃと口を開くと、代わりに涙が出る。
先輩が、びくっとしたのがわかった。
「…楽じゃ、ないですよ」
「ごめん…」
「全然楽じゃないです」
「ごめんって」
見られたくなくて、腕で顔を覆った。
少しでも遠ざかろうと、ずるずるとしゃがみ込む私を追うように、先輩も膝を折る。
その手がためらいがちに、私の髪をなでた。
「湯田、泣くな、お前に泣かれると俺、弱い」
「すみません」
「謝るなよ…」
「何なさってるんです!?」
突然の怒声に、私たちは弾かれるように立ち上がった。
戸口には清掃員の制服を着たおばさんが、ものすごい形相で仁王立ちしていた。
あ、と先輩が硬直する。