エリートな彼と極上オフィス
「ここは女性用ですよ、何かご用ですか」
「いや、すみません、俺」
「出ていかないなら警備員を呼びます、最近見つかった隠しカメラの件で、私たちまで迷惑してるんですから!」
「か、カメラ?」
そう言えばそんな噂を聞いた。
どう見ても内部犯の仕業なので、仕方なく人事部が対応中なんだとか。
俺は違います、と先輩は必死に否定しながら、清掃中の立て札で追い立てられるように出ていく。
その痴漢並みの扱いに、ようやく私は自分が"被害者"だと思われていることに気づいた。
これは誤解を解いておかないとまずい。
「そうだ湯田、夏休み入ったら、平日のうちに例の行こう」
「はっ?」
「やっぱり千明に車借りる、安いし、いって!」
ついに看板が先輩の腰にヒットする。
容赦ないおばさんの制裁に、転がるように先輩は廊下を駆けていった。
千明さんて、友達に車貸すのにお金取るのか。
そんなことを考えながら見送った。
こんなこと言うと、お前どっちなんだよと言われるかもしれないけど、先輩との予定が飛んだ時、私はどこかでほっとした。
なぜ彼が突然、出かけようなんて言い出したのか。
それはたぶん、何かをそこで見極めようとしたんじゃないかって、思ったからだ。
つまり、私は“あり”なのかどうかってこと。
行って、“なし”と判断されるくらいなら、行かないほうがいい。
そんな弱気が芽生えた。
でもね。
やっぱり、先輩とどこか行きたかったんです。
一日中ふたりだけで、罵倒されたり甘やかされたりしたかったんです。
今それを実感しました。
清掃のおばさんが、おろおろと私を慰めてくれる。
すみません紛らわしくて。
でもこの涙は大丈夫です。
ねえ好きですよ、先輩。
この気持ち、どう伝えたらいいですかね?
伝えても、いいですかね?