エリートな彼と極上オフィス
「山本、中川とどんな休日を過ごしたのか、教えろよ」
「中川?」
唐突な質問に、先輩が目を丸くする。
どんなって、と記憶を探るように視線をあちこちさせた。
「予定してたとおりだよ、不動産屋行って、駐車場いくつか見て、目星つけて、車も見に行った。買わなかったけど」
「家には」
「お茶飲んでけって言うから、上がったよ」
「お茶飲んだだけですか」
「いや、そりゃ…」
あ、と言葉を切って、私を見下ろす。
「なんか変な想像してんな、やってねえぞ」
「誘われはしたってことですか、どう切り抜けたんですか」
「千明が断り文句を考えてくれたんだ」
ふふん、と得意気に腕を組むので、何をそんなにいばれるんだかと呆れながら、どんなですか、と訪ねてみると。
「『お前とは友達でいたいから、そういうことはしない』」
「なるほど…」
さすが千明さん、論破しづらい文句を用意する。
そして先輩は、よく長年の間、そう断ればいいだけってことに気づかずに来たものだ。
千明さんは、意味ありげに私を見て笑った。
まあ当然だ、私の顔には、安堵がありありと浮かんでいるだろうから。
「さ、用が済んだならあっち行け」
「そこまで秘密にすることかよ」
「さみしいのはわかるが、あっち行け」
きっぱりと言われ、今度こそコウ先輩は、あからさまにふくれてしまった。
いいよもう、と幼児のような捨て台詞を吐き、食堂を去る。
気の毒だけど、仕方ない。
彼にだけは知られちゃいけない計画が進行中なのだから。