エリートな彼と極上オフィス
「来月のグルインについて、計画をご報告します」
私は会議室のモニタに映し出された自分のPCの画面上で、資料を何ページかめくった。
「この仮説を元に、まず関係者に対して模擬インタビューを行います」
「どうしてわざわざ?」
「本番で出るであろう意見に対し、さらに深堀りするための質問を用意するのと、必要であれば仮説を見直すためです」
「対象者を選出する基準は?」
「グルインの仕組みに詳しくない方がいいです、それと、顔を合わせたことのない人同士を組めるように」
なるほど、と何人かがうなずく。
商品開発やプロモーション以外の分野でグループインタビューを行うのは、初の試みだ。
統合的なマーケティング、という大きな話だけに、何をやるにも足元の目的がもやっとしがちだけど、それでは進めない。
緻密な仮説と、徹底的な検証。
その必要性をしつこく説くのは、岩瀬CMOだ。
「お前が頼もしくなったって」
「はい?」
ある日、先輩はやけににこにこと、そう言った。
「この間、岩瀬さんに呼び出されて何かと思ったら、最近お前がすごく成長して、頼もしいって」
「ほんとですか、嬉しいです」
「俺も嬉しい」
そんなに? と言いたくなるほど、先輩は嬉しそうだ。
グルインのコーディネーターとの長い打ち合わせを終えたところで、息抜きに出てきた屋外は、夕立の後でむっと湿っていた。
「夕立っていうか、ゲリラ豪雨だろ」
「夕方のゲリラ豪雨くらい夕立と呼びましょう、悲しいから」
「終わっても涼しくないんだもんなあ」
彼の言うとおり、熱されたアスファルトは、降り注いだ雨を蒸気に変えて、蒸し風呂のような環境を作っている。
日本の亜熱帯化とはよく言ったものだ。