エリートな彼と極上オフィス
世の中にはこういう、どこを切り取っても陽の気を発する人というものがいるのだ。

感動するほど先輩は一日中楽しそうで、車中では好きな音楽をかけて一緒に歌い、訊いてもいないのにアーティストの説明をした。

予定こそしっかり立ててあったものの、途中で気を引かれる何かがあれば寄り道し、その後のスケジュールを書き直すのも平気だった。


なーんだ、と思った。

いつもの先輩だ。

仕事で、面白い議題とかちょっとした課題にぶつかった時に見せるあのテンションが、プライベートでもこんなふうに発揮されるのだ。


助手席という、近い距離で、延々ふたり。

私はすごく楽しく、心からくつろいで、なんでも言えた。

先輩もそうだといいと祈った。





「それでは本日のMCを務めさせていただきます、広報部の千明と」

「統合マーケティング室の湯田です、名前だけでも覚えて帰ってくださいね」



有名な漫才コンテストの出囃子の中、顔なじみばかりの取引先さんたちからどっと笑いが湧いた。

よし、つかみはオッケー。


最新型の屋形船は、冷房完備、床もトイレも清潔極まりなく、屋上へ出れば気持ちいい風を感じられる。

屋形船にしたのは、遅刻も早退もできないからだ。

みんな忙しいのはわかるけど、今だけは仕事のこと忘れて、お酒を飲むのに専念しましょうということだ。

ずらりと並んだ宴会客は、乾杯からなごやかに、この異空間を楽しんでいるように見えた。



「お前、かっこいいシャツ着てんなー」

「ほんとですか、後で先輩も着られますよ」

「えっ」



司会の合間に、ちょろちょろと各テーブルに挨拶回りをしている中で、コウ先輩に会った。

すでに瓶ビールを数杯きこしめしているらしく、襟元をくつろげてあぐらをかいている。

私と千明さんが着ているのは、同舟会と筆文字で渋く書かれた、白いTシャツだ。



「まだ内緒ですが、この後、班に分かれていただきます。みなさんにはチームカラーのシャツを用意してあります、すっごいの」

「蛍光の黄緑とか?」

「今をときめくネオンカラーと言ってください」

「お前ら、やりたい放題だな」


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