エリートな彼と極上オフィス
顔をしかめる先輩に、ふふふと含み笑いして、その場を去った。

大丈夫、先輩の班は、先輩に似合う色をと私が独断で選んだ綺麗なスカイブルーです。

他の班は当たり外れがかなりありますが。



「肌色のTシャツって、売ってんのな」

「失礼な、サンディブラウンというおしゃれな色名ですよ」

「湯田、お前、絶対わざとだろ」



身内のぼやきを無視して、進行に徹する。

班対抗のクイズやら伝言ゲームやら、千明さんと知恵を絞った出し物は終始笑いをもたらし、座は盛り上がった。

隙を見つけては、懇意の取引先さんにお酌をし、日頃あまり縁のない方にはご挨拶をする。

目が回りそうなほど忙しい。



「ではしばしご歓談のお時間とします」



ようやく千明さんがそう告げた時には、私は空腹と疲労でふらふらになっていた。



「お疲れ、上で風に当たってきたらいいよ」

「そうさせていただきます」



つかの間の休息だ。

よろよろと甲板に上がると、見渡せる湾の黒い水面は、残暑を楽しむ屋形船たちの明かりでいっぱいだった。

海から来る風が、動き回って汗ばんだ額を冷やす。

湯田、と呼ぶ声がした。



「こっち来いよ、疲れただろ」



甲板の半分は喫煙者の溜まり場になっている。

ベンチのひとつに座って私を呼ぶのは、コウ先輩だった。



「お邪魔します」

「今お前の話、してたんだ」



隣に座ると、向かいのベンチには岩瀬CMOと、ブランドコンサルティングの会社の数名がいる。

みんなワイシャツの上に先程のTシャツをまだ着ていて、奇妙なスタイルだけど気にしていないようだ。



「いいお話ですかね?」

「そうだよ、お前の愉快な視点と独特の言葉選びは、気づきをくれるよなって」

「…いいお話ですかね」


< 65 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop