エリートな彼と極上オフィス
なんとなく無理に表現をマイルドにしてもらった気がして、微妙に喜べずにいると、取引先さんが笑う。



「僕らには新鮮なんですよ、こういう仕事をしていると、お会いする方々はたいてい、ふたつに分かれるんです」

「マーケティング理論で純粋培養された感じの方と、さっぱり理解できないけど、必要性は感じるので渋々やってるって感じの方」



口々に言うのは、中堅と若手の二人組で、そういえば彼らも先輩後輩だと聞いた。

CMOがうなずく。



「湯田は、そういう勉強をしていたわけじゃないもんな」

「そうですね、なんせ史学部なので」

「よく食いついてきてるなって感心するよ」

「山本さんのご指導の賜です」

「事実、そうなんだろうな」



突然自分の話になり、目を丸くするコウ先輩に、CMOが優しく笑った。



「山本は最初、後輩を持つのを嫌がってたろう」

「まだ人に教えられる立場じゃないと思ってたので」



ビールに口をつけながら、照れくさそうにはにかむ。

考えてみれば先輩も、私が入社したのと同時にこの新設部署に入ったわけで、たぶん自分のことだけで手一杯だったのだ。

なのに私の記憶では、配属当初から統合マーケティングの考え方に精通して、手を引いてくれる人だった。



「希望して入ってきたんだったな」

「営業してた頃、うちの会社の考えに軸がないのが不満で。どんなにいい商品も、それがないとやっぱり一過性の流行りで終わるなと」

「お前は知らないだろうが、上長からもいい推薦状が出てたんだよ、惜しいけどあげます、みたいな」

「ほんとですか」



初めて知った話らしく、嬉しそうに笑った。

こういう正直なところ、いいよなあなんて思いながら横顔を見ていると、くるっとこっちを向く。



「俺、いずれはマーケティングをやりたいと思ってて、理想的な形でそれが叶ったから、自分の仕事に専念したかったんだ」

「よくそれで、私を受け入れてくださいましたね」

「だってお前が悪いわけでもないし、こうなったらとことん一緒にやろうかなってさ、会ったら女の子だったのには焦ったけど」

「知らなかったんですか」


< 66 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop