エリートな彼と極上オフィス

「山本、前へ!」



今度は軍隊みたいになっちゃった。

いっそう大きくなる盛り上がりを聞きながら、私は慎重にフロアのほうへ向かう。


私が姿を見せると、歓声と拍手が激しくなった。

なぜなら私の手にあるのは、40名に切り分けることのできる特大のケーキで、その上では26本のろうそくが炎を揺らしているからだ。

この光景を見て、反射的に拍手をしない人なんていない。


微調整の利かない設備らしく、フロアはほんとに真っ暗だ。

そんな中、中央に立たされた先輩は、ろうそくの明かりの中、そろりそろりと近づいていく私を、ぽかんと見ている。


ねえびっくりしました?

びっくりしたって言ってください。



「火を消すんですよ」



目の前に行っても先輩が動かないので、そうささやかなければならなかった。

先輩ははっとして、あ、と私とケーキを見る。

歌が終わり、鳴りやまない拍手の中、先輩がろうそくを吹き消そうとした時、何やら新たなコールが観衆から湧き起こった。


はじめ、意味がわからなかった。

身内がどっと笑い、やんややんやのかけ声が飛んだので、何事かと周囲を見回す。

身振りではやし立てる人達のおかげで、ようやくコールが何を言っているか理解した。


“チュー”だ!


え、私が先輩にってこと?

いやいや、ないでしょ。

というか残念ながら物理的に無理だ、ケーキのトレイを置く場所がないし、重さがあるので持っているだけで限界。

ていうか意外とみんな俗っぽいですね、嫌いじゃないけど、あはは。


なんてことを考えていたら、ぐいと肩を引かれた。

まだ火の灯っているケーキを傾けないよう、とっさにバランスをとったところに、頬に柔らかいものがぶつかってくる。


わーっとみんなが湧いた。

私は凝固していた。

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