エリートな彼と極上オフィス
興奮のあまり振り回したししゃもが折れて、先輩のお取り皿にうまく乗った。

腹減ったを連発していた先輩は、それをためらいなく手づかみして口に入れる。

私の食べかけだったんですが、まあいいか。



「続けて」

「えっと、会社は社長のものなんですよ。できるものなら社長ひとりで全部やりゃいいんです」

「また極論だな」

「でも無理だからみんなが手伝ってんです、社長は自分の言葉で、会社をどうしたいか言わなきゃダメです、社員はその実現のためにいるんですから」



先輩はビールを飲みながら、しばらく黙って考え込み。

やがて私を見ると、しみじみと言った。



「お前、ほんと面白いなあ」

「え」

「同期なんかといるより、お前と話してるほうがよっぽど楽しいわ」



先輩の連れてきてくれた飲み屋は、いかにも先輩が好きそうな、こぢんまりとしながらもお酒と食べ物のおいしい店で。

数席しかない小さなテーブルの、奥まったひとつで、こんなかっこいい人から面と向かってそんなこと言われたら。

そりゃ、乙女心にフラグも立ちますわ。



そもそも山本航という人は、最初からいささか問題ありでした。

配属の挨拶の日、緊張でコチコチの私に、満面の笑みで「よろしくな!」と爽やかに握手してきたのに始まり。

口は悪いわりに誉め上手で、私が課題をクリアするたび一緒に喜んで、よくやったと誉め倒してくれる。

できないと、なんでできないのかなあ、と頭を抱えてくれる。


ランチでも夕食でも飲みでも、遠慮なしに私を誘い。

夜だろうが休日だろうが、何か仕事のアイデアややっておくことを思いついたら、即連絡してくる。


こんなの、勘違いもするってもんです。

ときめき耐性のないところに、こんな人と組まされて。

舞い上がり慣れしていない私は、すっかり精神をやられて、物事が見えなくなっていたわけです。



「私、先輩のこと好きなんですよ」


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