エリートな彼と極上オフィス
何をいばっているのだ、この人は。

質問いいですか、と小さく挙手すると、いいぜ、と偉そうな返事がある。



「そこまで気に入っていただけているのに、頑なに“ごめん”なのには、何か理由でも?」



彼なりのポリシーなんだろうか。

例えば職場恋愛はしない、みたいな。

それとも私は、いわばキャラみたいなもので、可愛がるけど好きにはならない、そんな存在?



「要するにですね、どうしたら可能性が見えてくるのか、知りたいんですよ」

「お前、意外とぐいぐい来るな」

「よくよく考えると、不可解な状況だなと思って」



中途半端を責められていると感じたのか、先輩はちょっと弱気な顔になり、わかってるけど、と言い訳がましく口を尖らせる。



「じゃあお前ならだ、予想もしなかった相手にいきなり好きとか言われて、そうか自分はどうかなとか、急に考えられるか?」

「質問に質問で返さないでくださいよ」



つい切り返すと、今度こそ先輩はすねてしまった。

ぷいと視線をそらし、早口で言う。



「俺は無理なの、後輩は後輩だし、友達は友達だし、それ変えんのは、すげえ難しいの」

「ほいほい入れてあげるくせにですか、あいたっ」



頭に手刀が入った。

なんだよ、当然の疑問じゃないか。


でも、そうか。

肉体的にどんな関係になろうが、そのままおつきあいに至らないのは、先輩のそのスタンスのせいだったのだ。

何があろうと、何をしようと、友達は友達、と。


車道でクラクションが鳴った。

無理な追い越しでもしたのか、白いセダンがそこそこのスピードで去っていく。

肩越しにそれを見送る先輩の横顔が、車列のライトに照らされる。



「とすると、“後輩”がその先に行くには、どうしたら」

「わかんねえ」

「そんな、無責任な」

「だってわかんねーよ、少なくともこれまで、そういうことはなかったの、だからごめんって言ったんだろ」

「嫌だってわけじゃ、ないんですね?」


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