エリートな彼と極上オフィス
「お前、対抗心燃やしてんの?」
「見逃しましょうよ」
「俺が言ったんだろ、それ」
意外なことに、こういう心理には気がつくらしい。
なんでその勘を、もっと大事なところに使ってくれないのか。
「中川みたいになりたいなら、髪伸ばせば」
「そういう意味ではまったくないです」
やっぱり全然わかってなかった。
脱力した私に、先輩が不機嫌になる。
「何怒ってんだよ」
「気落ちしているだけです、どうあっても無理なのだろうなと」
「無理って何が」
「だって無理でしょ、屋形船で私に何したか聞いてますよね、あれがきっかけにならないんなら、どこに望みがあると」
「そんなの、わかんないだろ」
「先輩はいったい、どんな立ち位置なんですか」
痛いところを突かれたらしく、整った顔が、傷ついたみたいに歪む。
またふくれるかなと思ったら、先輩は視線を落として、何やら難しい顔で考え込み。
「嫌じゃないんだって、言ったろ」
それで全部。
そう、ぼそっと言った。
お互い、しばらく無言で地面を見つめるはめになった。
何を言うべきか、わからなかったからだ。
困惑する私の手を、先輩が取った。
びくっとして、思わず引っ込めようとしたところを、ぎゅっと力で阻まれる。
えっ、何。
なんですか。
「あの」
「試したらまた、女の敵って言われんの?」
「はっ?」
引き寄せられて、ふらつくように一歩、先輩に近づいた。
ガードレールに腰を下ろした先輩は、少し見下ろす高さに目線がある。
やけに静かに見つめられて、どぎまぎした。