エリートな彼と極上オフィス
その日は朝からざわめいていた。
突然の、大型な人事異動が発令されたからだった。
「完全に管理職だけだな」
「それもほぼ役員に限られてますね」
来月、臨時株主総会を開き、就任の決議を行うらしい。
そこで何かが覆るとも思えないから、この人事は実現するんだろう。
自分にはあまり影響がないように思えたので、ふーんと顔を上げたら、背後から私のPCを覗き込んでいた先輩にぶつかった。
「いて」
「あ、失礼しました」
私の後頭部が当たったらしい顎のあたりを押さえて、いや、と先輩が言う。
見上げる私の視線をかわすみたいに、ふっと目をそらすと、露骨すぎたと思ったのか、気まずそうな微笑みを一瞬見せる。
最近先輩は、ずっとこんな感じ。
「変ですよ」
「俺もそう感じる、組織変更の前触れかもな」
「人事の話でなく」
定食の載ったテーブルを挟んで目が合った。
よく食べるなあ、と感心する勢いだった先輩は、ぴたりとお箸を止めて。
責めるような視線を私に向けると、かすかに顔を赤らめた。
「お前、意地悪いぞ」
「世間の基準では、健気と言ってもらえるはずなんですが」
「そういうところが、意地悪いって言ってんだ」
覚えておきます、と従順に応じる私を、不服そうににらんで。
そこから先、何も喋らなくなってしまった。
お箸をあちこち動かしたと思えば、急に固まって何やら考え込んでみたり。
口を開きかけては、あきらめてみたり。
視線だけはうつむけて、私を見ることはしない。
私はといえば、そんな先輩を遠慮なしに眺め回しながら、これをおかずに白飯をおかわりできそうだ、と考えていた。