エリートな彼と極上オフィス
思うに。

本人の言うとおり、先輩は私のことが可愛くて仕方ないのだ。

あくまで後輩として、だけど。


だからできることなら、私の望みは叶えてやりたいのだ。

つまり、私の気持ちに応えたいのだ。


でもできない。

やったことがないから。

どうすればできるのかもわからない。


その狭間で悩んでいる。

人のいい先輩。






「あっ」

「やあ」



通りかかった会議室のドアが開いていて、中にいた人と偶然、目が合った。

そんなシチュエーションのおかげで、不思議と挨拶は、普段しないような親しげなものになる。

榎並人事部長だ。


5月に相談をして以来、人事部は積極的に協力をしてくれており、外部のコンサルタント含め、コウ先輩と議論を深めている。

私はこの件の担当ではないため、庶務レベルのことでしか関わっておらず、部長と話す機会もほとんどなかった。



「こんにちは、お一人ですか」

「そう、ドアを閉めるのを忘れていたよ、おっと、入らないでもらえるかな、秘密の書類なんだ」



正直な返答が可愛く思えて、笑ってしまう。



「じゃあ、お閉めしますよ」

「ありがとう」



あ、とそこで気づき、手を止めた。

察しよく榎並さんが、何かな、と片方の眉を上げた。



「今朝内示のあった人事の裏話なんて、教えていただけないですよね」



ハンサムな顔が、ちょっと困ってみせる。

彼は少し考えて、広げてあったファイルや書類を手際よく片づけると、私を手招きした。

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