エリートな彼と極上オフィス
そりゃそうだろ、と砂肝の串をくわえて、メニューを眺めながら先輩は脚を組み替えた。



「俺だって…」



鉄板のボケは、途中で消える。

私を見たからだ。

自分の言ったことに激しく動揺して、真っ赤になって震えている後輩の姿を、見つけたからだ。



「…湯田?」



いや、あはは、すみません、何言ってんでしょうね私。

好きとか、そういう意味じゃないです。

先輩として憧れてるってことですよ、知ってるでしょ。


脳内で、さらりとかわす自分を想像したけれど、ダメだった。

現実の私は、完全に停止。

呆然とする先輩を前に、一言も出てこない。


念のため言っておくと、私は決して、“いける”と思ったからこんなこと口走ったわけじゃない。

思い悩んで思い悩んで、ってわけでもない。

ただ、日々先輩といるうちに、あーこれがいわゆる恋かなと思うことはあり。

だけど、そんなの意識したら終わりだってことも知っていた。



(知っていたともさ)



目が合った。

先輩の表情が、さっと強ばった。

もう逃げられないと、悟ったように。


それでも、恥をしのんで白状するとだ。

この時まで確かに、私の心には、万にひとつを期待する気持ちがあった。

だって先輩は、どう考えても私にかなりのウェイトを割いてる、それは事実、でしょ?

一緒にいる時間も長いし、開口一番私を呼ぶし、なんたって優しいし、先輩だって楽しそうだ。

現に楽しいって、言ってくれてる。


でもね。

私は途方もない大バカだったのです。

この後すぐに、それがわかります。

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