エリートな彼と極上オフィス
「いつ復帰するんですか」
「二週間の休みを取りたいと、今朝連絡があった」
二週間! と誰かが驚きの声をあげる。
確かに、一親等の不幸だとしても、かなり長い。
嶋さんが、みんなの覚悟を問うように見回してから。
慎重に、努めて静かに口を開いた。
「お母さんはどうも、自殺されたらしい」
誰も、何も言えなかった。
私といったら、あまりにも先輩のイメージと遠すぎて、なんの話だかわからず、呆然としていた。
復帰したらねぎらってやろう、って。
そういう意味か。
「お姉さんは小さなお子さんを抱えている。山本は心労もさることながら、手続きや親族の対応で相当疲弊するだろう、二週間で足りるのかどうか」
「悔しいでしょうね、よりによって今」
六川さんの不謹慎とも言える言葉を、誰も咎めなかった。
たぶん先輩の本音に違いないからだ。
お母さんを喪った悲しみと、何もできなかった無力感と、そういうものは、きっと他の誰かが理解してあげている。
今の仕事を、こんなふうに戦線離脱しなきゃならない先輩の悔しさを、察してあげられるのは私たちだけだ。
「山本は、みんなに負担をかけることをとても申し訳ながっていた」
「まあ実際、負担ですよ、あいつは働きがいいですから」
六川さんが肩をすくめてみせる。
残りのメンバーも、口々に愚痴を垂れた。
「かなりの痛手です、そう伝えといてください」
「穴が空くわけじゃないですけどね」
「つまり、一刻も早い復帰を待つが、調子に乗るなということだな、わかった、CMOに伝言を頼んでおく」
「湯田、山本と進めていた面談の進捗をまとめてくれ」
「はい」
非現実的な緊張をまとったまま、面々は笑顔を浮かべた。
ここにはいない、先輩を励ますみたいに。
私は、自分がどうすべきなのかまったくわからず。
ただひたすら、先輩の声を恋しく思った。