エリートな彼と極上オフィス
湯田がいないと調子出ないな、って。
こんな時でも、そう思ってくれていますか。
先輩。
先輩が出社しなくなって一週間、本人から私に連絡はなく、私も事情を知ってからは、何も言えずにいた。
私はこういう時、気を楽にしてあげたいという思いから、自分があえて軽く振る舞う癖があるのを知っているので。
今、先輩に何か言おうとしたら、取り返しのつかないことをしてしまう気がしたので。
ひたすら、先輩の休みが明けるのを待った。
「湯田さん、今いいかな」
「あっ、こんにちは」
他部署を訪れるために階段を上り下りしていた時、甘いボイスに呼び止められた。
榎並部長が、人事部のある階から見下ろしている。
「あなたは口が堅いかな?」
「場合によります」
空いていた小さな会議室に入りながら、榎並部長がくすくすと笑った。
「漏らされては私が困る、と訴えたら、黙っていてくれるかな?」
「うーん」
たとえばコウ先輩になら言うだろうし、ここで漏らしても榎並部長は困らないと私なりに判断したら、たぶん言う。
100%の約束はできないなあ、そもそも人に言うために訊いてるんだしなあ、と考えていると、笑い声が大きくなる。
「本当に正直だね、あなたを信じよう。第二次の人事異動の内示が出るよ」
「いつですか」
「三日後だ」
ということは、そろそろ本人への通達がある頃か。
このタイミングが、榎並部長の倫理感と、私になるべく早く聞かせてやりたいという思いのちょうど中間だったんだろう。