エリートな彼と極上オフィス
行きつけの飲み屋の灯りを見た時、由美さんにかまってもらいたくなった。
しばし足を止めて悩み、やめた。
ここのところ、お酒を飲む気にならないのだ。
いつ先輩から連絡があるかと思うと、酔いたくない。
コンビニの夕食を部屋で食べ、ごみをまとめて、下着類だけ洗濯をして、早めにベッドに入った。
携帯を見つめても、先輩からの連絡はない。
つい10日ほど前の、のんきなやりとりの履歴を見ているうち、何かが込み上げた。
親に泣かれて、バイクをやめたって言ってましたね。
それは、お母さんのことだったんですね。
息子の事故で泣いちゃうようなお母さんが、息子のいるこの世への別れを、自ら選んだんですね。
先輩、今、つらいですか。
大変ですか、心も身体もへとへとですか。
私のことは、どこか心の片隅に、ありますか。
それはもしかしたら、少し先輩を笑わせてあげたり、できないものですか。
なんで私は、何もできず、こんなところにいるんだろう。
閉じたまぶたの裏が、じんわりと熱を持った。
先輩。
今何をしていますか。
「疲れたな」
雨だな、みたいな口ぶりで、六川さんが呟いた。
確かに、と嶋さんが同意する。
「このままだと、山本が戻る前に限界が来そうだな」
「でも順調に進捗してますし」
「お前のことだぞ、湯田」
進捗管理を任されている手前、そこは問題ないと安心させようとしたら、矛先がこちらに向くという思わぬ展開になった。
六川さんがにやりとする。