徒然なるままに、短歌部
1+1と1×1
文芸部に来るのは、久しぶり……という気がしないのはなぜか。
それは、よく戸松先輩に会っていることもそうだけど、それ以前に私がまだ、短歌部に左遷されて日が浅いことが理由だろう。
まさかこんなにも早く文芸部に帰ってくるなんて思わなかった。
「珍しいな、あの裃くんがここに来るなんて」
戸松先輩のその言葉で、周りがざわざわとし始めた。
「あれが噂の異端児、裃更太かよ……」
「あれでしょ? 『埋もれた才能』って呼ばれてて、鵬芸出版の審査員特別賞の小説……なんだっけ?」
「ほら、あれだよ! 『徒然なるままに生きること』。」
「七不思議の一つかと思ってたけど、本当にいたんだ……」
サラダ先輩の名前は、文芸部でも噂になっているようで、もしかしたら私はすごい人と毎日コーヒーを飲んでいるのかもしれないと思うと、ゾッとした。