徒然なるままに、短歌部





そして、待つこと5分。




私の目の前に現れたメガネをかけたおじさん。




「いやあ、お待たせして申し訳ないね。犬の散歩に行っててね」




そう話すこのおじさんが、カナ先輩のお父さんみたいで、この家に似つかないほど、優しそうで、ほんの少し気の弱そうな印象。




これを俗にいう、ギャップというやつか。




「あ、初めまして。私、猿渡万智という者で……」




「お父さん、この子が短歌部の新入部員なの」




「ほお、そうかね。短歌部の……猿渡? 猿渡……猿渡……」




おじさんは、そう呟くと遠い目をした。きっと何か短歌部に思い入れがあって、懐かしい響きに心が奪われているんじゃないかと思う。




「叶から短歌部を復活させたという話を聞いたが、どうやら本当だったんだね」




「ちょっと、お父さん! それ信じてなかったってこと?」




「まあね。だって、考えてもみなさい。この時代に短歌を好き好んでいる若者がいるかね? やれカラオケだの、やれコンビニだの、そういう新しいものに流されるのが今の若者の姿だよ。それが悪いとは言ってないんだ。時代の流れだからしょうがないんだ」




そうしみじみと話すおじさんの前でとても私は「短歌を詠んでいない名前だけの短歌部」だなんて説明はできなかった。




「それで、今日、来たわけを聞かせてもらえないかな?」





< 196 / 266 >

この作品をシェア

pagetop