徒然なるままに、短歌部
美佐枝先輩は、短歌馬鹿だったけれど、実際、学校では人気者だった。長い黒髪が綺麗で、男子からは結構モテていてね、短歌部の部室にまでラブレターを渡しに来る人も少なくなかったよ。
だからといって、女子からは妬まれることはなかったと思うね。むしろ、女子の憧れ=美佐枝先輩だったと言っても過言ではなかった。勉強もできるし、スポーツも得意だった。たまにバスケ部の試合に助っ人として参加することもあってね、私も応援に行ったことがあるけれど、それは見事だった。
もうここまでべた褒めしているから察しは付くと思うけど、私は美佐枝先輩に恋をしていた。
一度、こんなことがあった。
「長我部くんって彼女とかいるの?」
「いないですけど……」
「じゃあ、恋したこともないの?」
私は美佐枝先輩の顔を見た。頬がみるみる紅潮していくのがわかって、慌てて顔を伏せた。
「し、したことないですよ!
私がそう言って、部室を出ようとすると、美佐枝先輩は優しく、
「別にその対象が人じゃなくてもいいのよ? 草や花や鳥や風でもいい。そういうものに目を向け、耳を傾ければ、不思議と愛が生まれるものよ。愛でて、思ったことをそのまま詠めばいいの。長我部くんならきっとできるはずよ」
と言ってくれた。その時だよ。彼女に告白をしようと考えたのは。
ただ、それどころではないくらい、とんでもない事件が起きたんだ。