徒然なるままに、短歌部





気づくと、合研公園(ごうけんこうえん)の跡地までやってきた。空き地になっていて、来年、ここでマンションの建設が始まる。家とは完全に反対方向で、スマホのバイブが長い時間、私のポケットの中で震えている。




電源を切った。帰りたくない。お母さんにどんな顔して会えばいいのかわからなかった。




私は空き地に残されているベンチに腰掛けた。そして、街灯の光を頼りに、おじさんから預かった『抗い』を開いて読んだ。




『軒下で雨上がるのを待つように 雲の切れ間に想いを馳せて』




『去りてゆく逞しき君背中から 漂う哀愁勇気と変えん』




『我々の願い虚しく散る桜 春を待てども夢の跡なり』




どの短歌も哀愁が漂っていて、怒りや憎しみは微塵も感じられなかった。きっと、みんな、短歌を、短歌部を心の底から愛していて、それを使って怒りや憎しみをぶつけたくなかったんだと思う。




そんなになるまで愛している短歌を、短歌部を軽視していた。




それどころか、小説を書きたいと思っている。




こうしている今でも、これを題材にしたらどういう話になるだろうかと心のどこかで考えている。




なんて、私は身勝手で最低な女なのだろう。






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