徒然なるままに、短歌部
「それで、順調なの?」
床を拭きながら私は「まあ……」と言葉を濁した。
「へえー、じゃあ、一首詠んでよ」
「ここで詠んだら学園祭で発表する楽しみがなくなるじゃん!」
本当はただ詠むのが恥ずかしいだけだ。お母さんは「それもそうね」と自分に言い聞かせるように軽く頷き、再び棒針を動かし始めた。
「でもあんたはそれでいいの?」
「え?」
「あんた、昔から絵本読むのとか好きだったでしょ? 中学校ではアニメとか映画とかドラマの設定を使って、小説書いたりしてさ。お母さん、てっきり小説家を目指すんだと思ってたわ」
お母さんは本当によく見ている。私が話していないこともすべて。親ってやっぱり偉大であると同時に、脅威でもあると思った。
「別にそういうことあるじゃん。子供の頃はウニ食べられなかったけど、今ではウニ好きだし。逆に、昔はしめじが好きだったけど、今では嫌い。味覚が変わっていくように、好きになることだって変わるよ!」
「まあ、それもそうね。でも、味覚と同じ感覚で捉えていたら、あんたは結婚なんかできないわね」
「え?」