短編集





バイト先によく見かける客がいる。

顔は童顔だけど、服装はわりと落ち着いていて、よく漫画や小説。たまにファッション誌を購入する常連客だ。大学生くらいだと思う。


この店は本以外にもゲームやDVDレンタルもあり、彼女はしょっちゅうDVDをレンタルしている。しかもアニメばかり。前に幼児向けのDVDを手にしてレジに来たときは思わず笑ってしまった。

彼女は決まって曜日は違えどいつも同じ時間帯に顔を出す。おそらく学校帰りとかに寄っているのだろうけど。…どんな子なんだろうな。



そんなある火曜日。今日はバイトがないからさっさと家に帰ろうと地下鉄の駅に向かい思わず目を疑った。

チョコレートみたいな茶色の髪。白い陶器みたいな肌。いつも彼女が着ているベージュのコートにぐるぐる巻いたピンク色のマフラー。




「っ」




お店以外で、初めて彼女の姿を見つけた。

思わずぼうっと突っ立っていると、そんな僕を不思議がるようにふいに目があった。だけど、すぐに俯いてしまう。


今のは偶然だろうか。それとも気のせいだろうか。はたまた僕ではない別のものを見ていたのか。いろんな考えがぐるぐると頭の中を過る。

話しかけてみたい。どんな声をしているのだろうか。



だけど、多分、いや…きっと僕は彼女に話しかける勇気なんてない。彼女とはただの常連客と店員。それに彼女はいつも俯いているから店員の顔なんて覚えてないだろうし。




(本当に、どんな子なんだろうな)




気づけば彼女の姿を視界に捕らえていて、この想いの正体はすぐに理解はしたけれど。へたれな僕は何も行動することが出来なくて。



始まるようで始まらない、彼らの話。

(それは臆病な男の子の恋の物語)



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