短編集
レモン味
何年間も思いを募らせた恋心も先日終わりを迎えた。
僕の視線の少し先には、幸せそうに笑う彼女がいて。風邪だろうか、何時もより思考が働かない。頭のなかがぐるぐるして。
微かに喉の奥が痛い。苦しい。痛い。
「村上くん。ありがとう」
好きだ、とは言えなかった。彼女の近くに居たくて話しかけたのに、いつの間にか彼女の背中を押していた。
だからだろうか、その言葉を聞いたときの彼女の表情が。僕に向けた笑顔が誰よりも綺麗だと思えてしまって。
……ケホ。
咳が出る。それと同時に僕は下を向いてじわりと滲む視界を隠した。
「村上くん、風邪?大丈夫?」
「ん、平気」
前の席に座っている前野さんが心配そうに顔を除き混んでくる。
大丈夫だとは言ったけど、そろそろ喉が本気で痛くなってきて、なんだか怠い。動きたくない。
机に突っ伏していると、はいあーんっと口の中に広がる檸檬の味。
「のど飴、あげる」
「……ありがと」
風邪だから弱っているのだろうか。カランコロンと口のなかで転がすそれは、ほんの少しだけ痛みを癒してくれるようだった。
そっと目の前にいる前野さんの袖を握る。なんだか目蓋が重くなってきて、昼休みだから別にいいよね、と安心して目を閉じた。
ちょっとだけ、今だけでいいから、彼女の優しさに甘えてみることにした。