甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
「私はね、決めたことやめてもいいと思うんだ。正直、わかんないじゃん、やったことないことをやるかやらないかどっちがいいかって。
でも、わからないのが当然だし。
ただぐるぐるぐるぐる頭で考えてるときじゃなくて、心が静かなときに決めたことが、本音だと思うから、そういうときに決めたらいいよ。
華さんに言われたってことは悩んで決めたのが伝わったんじゃないかな。綾仁くんは悩んでないって思ってるのかもしれないけど」
ハッとしたように顔をあげ、私をジッと見ると「……そうかもしれないです」と頷いた。
「綾仁」と上から呼ばれた。天野先生だった。
そういえばあの課長VS天野先生の戦いはどうなったのだろう。後で中村に聞いてみよう。
「もう片付けるって」
「あ、はーい」
「あ、私も戻らないとな」
階段を降りると、
「付き合ってくれてありがとうございました。ドッチビー楽しかったです」
「あ、私も初ドッチビー楽しかった。次はもう少しうまくやれる気がする」
「ふはっ。真唯子さん、けっこー負けず嫌いですね」
「そうかも、楽しかったからかな。じゃあ、またね」
「はい」
反対方向へ行こうとすると、後ろから「顕人の同僚の方でしたよね?」と天野先生に声をかけられた。
「あ、はい」
「自分、顕人と大学時代の友達です。久しぶりに帰ってきたんだけど、冷たくあしらわれちゃって」
「課長、素っ気ないですから」と言って、心の中で違うなと思って言い直した。
「だけど、冷たい人ではないです」
課長がではなく自分の中に冷たくされる何かがあるんだろうと伝えたつもりだった。