甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「それはないでしょ。だって隠す必要ないじゃないすか」
「そうなんだけど。いやだって、そうと思わなかったら、どう解釈していいかわからなくて」
「……だから何を見たの?」
「いや、芋煮のときっすよ。課長と若槻さん、先に帰ったじゃないですか。俺、そのとき、それ知らなくてトイレから駐車場の方にいた二人が見えたんで、何してんのかなーと見てたら、なんていうかこんな感じで」
と隣にいた中村を遠慮なく抱きしめるので「きゃあああ」と小さな悲鳴を上げた。

「加賀……加賀……ががっち!」

中村は頬を真っ赤にしてから、バシッと加賀くんを叩いた。噛みすぎて最終的には名前を間違っている。

「あ、ごめん、ごめん。とにかく抱き合ってたように見えて」
「具合が悪かったから支えたとかじゃないの?」
「そうっすよ。ふらっとなった若槻さんを抱きとめたとか」
「と、思いたいんだけど。それだったらすぐに離れますよね。なんかそういう感じの離れ方じゃなかったし。間があったっていうか」
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