甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
「本当に、しょうもないですね」
ハッキリ告げたら、課長の笑いのツボだったようでふはっと短く笑った。
「小千谷のそういうところ、楽でいいな」
「楽でって。そうですね。私は課長にとって家族ですもんね」
「家族?」
「若槻から小千谷は家族みたいだって課長が話してたって聞きましたよ。だから、私が課長の家にいても何もあるはずないと信用されてましたっけね」
課長に女性として見られていない自覚はある。それが今は悔しくて、つい棘のあるような言い方になった。
「お前が俺をお母さんとかばあちゃんとか呼ぶからだろ」
「え、そこですか?」
「家族扱いしてるのは、小千谷だろ。次はなんのキャラクターにされるのか。ペットは勘弁しろよな」
「課長をペット扱い。恐れ多くてできません。それに飼い主に絶対懐かなそうだし。触れたら噛まれそう。それか無視されそう」
「お前、本当に俺のことどう思ってるか、わかんねーな」と呟いた。
「今、言ったままですよ」と、本音とは真逆で返してしまう。
あ、また失敗した。
課長は、ベランダの方に顔を向けると「そういえば今日、満月だったな」と呟いた。
「あ、そうでしたね」
「月見するのか、毎月」
私が酔っ払って月見に誘ったことを、からかってくる。