甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
「満月じゃなくても、見たいときに見ますよ。じゃあ課長、今からお月見しますか」
あえて誘うと
「嫌だよ」
「ですよね。じゃあ、私は眺めてきます」
そう言って一人ベランダへ出た。少し頭を冷やしたかった。
さっきまで出ていた雲が払われ、クリーム色の満月が見えた。やはり夜風は冷たくて酔いが醒めていく感じが気持ちいい。
こうして一緒にいられること、課長への思いを感じられることが幸せなんだなぁ――課長にどう見られているか、好きになってもらいたいとか、外側に意識を向ければ向けるほど、重くなっていくだけで、大切なことから切り離されていく。
そうじゃない。
目をつむり、内側の愛しさに呼吸をあわせていると、あたたかな幸せを感じられた。
カタッと音がして振り向く。
課長が様子を伺っていたので「課長もどうぞ」と招いてみると、隣に並んだ。
「課長とこうして月見するの二度目ですね」
「そうだな。いやあんとき、月まったく見えてなかったけどな」
「ははははは」
「また小千谷とこうして一緒にいるなんて思わなかったな」
「同感です。でも課長、私、本当はこうしていられることすごい幸せです。
ありがとうございます」