甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「え? だから持田さん、課長がいいって言ってたから。課長は持田さんどうですか? 俺的に超おすすめですけど」
「超おすすめなら、お前が付き合えばいいだろ」と受け流したので、ホッとした。
なんとも思っていないことは自然と伝わってくる話し方だった。

視線を上げると「小千谷さん、ごめんなさい。そろそろ帰りますね」と若槻が声をかけてきた。
「うん。今日は本当にありがと。助かった」
「じゃあ」
「あ、私もスマホ取りに行くから一緒戻るわ」
「え、置きっぱなしだったんですか?」
「うん。取りに行こうと思ってたの、忘れてた」
空いていたテーブルにコップを置くと、揺れでこぼれてしまった。

慌てて拭き取っていると
「あの、矢嶋課長ってまだご結婚されてないんですよね。彼女って、いないんですか?」と持田さんの声がした。
「は?」と冷たい返事が聞こえると、一気に動悸が速くなった。
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