甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「真唯子」と課長がふいに呼んだので驚いて顔を上げた。
「え?」
「なんだよ。お前の名前だろ」
「はい、私の名前でした。びっくりしてしまって、動悸が速くなりました」
「お前、いつまで俺のこと課長って呼ぶんだよ」

ハッとする。課長という呼び方が自然すぎて名前のように呼んでいた。

「なんか抜けなくて。じゃあ……えっと、矢嶋さん」
「なんで照れながら言うのが名字でさんづけなんだ」とイラッとされた。

「え、恥ずかしいじゃないですか。名前で呼ぶの」
「そっちのほうがよそよそしくて恥ずかしいだろ。わかった。今から、課長とか名字で読んだらはっ倒すからな」
「え? 課長、はっ倒すって。そんなのガチすぎて、呼ばざるを得ないじゃないですか」
本気に思えて身構えると
「だからだろ。よし、はっ倒すか」
と身体を寄せてきたので慌てて
「課長、じゃないです、えっと……顕人さん」
不服だったのか、おでこをとんっと指でついた。
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