甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
それにと続ける。
「多実なんかね、全然男の子に興味なくて、変に落ち着きはじめてさー。最近なんか盆栽? そう、盆栽とかね、趣味で始めようとしてさ。いや、盆栽は悪くないんだけど、なんていうかもう少しやることあるでしょ? 的な。なんかもうババアっていうかジジイっていうか枯れてる感満載で、逆に心配なのよね」
と溜め息を吐いてから、
「でも良かった、本当に。真唯ちゃんが結婚してさ、その家にもう一度灯りがともればいいと思ってたから」
久枝ちゃんが優しく微笑んでいるように感じた。
「30過ぎた独身女の一人暮らしがどれだけ孤独だと思ってるの。ろうそく位の火は辛うじてついてるよ」
冗談で返すと
「ううん。そうじゃないの。家族って灯りだよ」
私はちょっとクサいなと思ったけど、久枝ちゃんは恥ずかしげもない。
「久枝ちゃん、気が早いよ。まだ付き合ったばっかりだし。結婚ってすぐならないんじゃないかなぁ」
「でも真唯ちゃんは、結婚してもいいかなって思ったりするでしょ?」
「まあ……」
「うん。幸せそう。声でわかるわよ。結婚が決まったら、私に最初に報告してね。あとは……」
張り切りだして通話が長くなりそうだったので、適当なところで電話を切った。
床に置いたパズルのピースに視線を落とす。
誰にも見送られず靴を履いて出かけ、ただいまと誰もいない部屋に言うことには慣れた。
だけど、いってらっしゃいやおかえりという暖かさも知っている。
このパズルを作った自分だって、そうだった。父と母の喧嘩に悩みながらも結局、家族はそこにいた。
「顕と家族か」
呟いてみて、うん、悪くないって思った。この家に明かりが灯る。