甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

紅葉と一泊


結局、行きたいところがあったら連れて行くと言われたけど、蕎麦が食べたい事しか思いつかなかった。

車で迎えに来てくれた顕にそれを告げると「じゃあ山形にでも行くか」と提案する。

山形は蕎麦も美味しいので、喜んで頷いた。

その間、顕の子供の頃はプラモデルとかボトルシップを作るのが好きだったり、石や土に興味があって調べたりすることもあったなとか、未だに細かい作業は好きだけど、そういうことも次第にやらなくなったと呟いて、そういうの私もあるなぁと返事をした。

町を抜けると、山間に変わる。時々、秋の色に変えた木々に目を奪われた。

「紅葉、綺麗だね。今更だけど、紅葉見に行くのも良かったね。山寺とか八幡平とかでも良かったかな」

思いつくままの紅葉の名所を述べてみたけど、「見頃は、終わってそうだな。どこかあれば寄ってもいいけど」と顕が呟いた。

確かにそうかもしれない。今朝のニュースで東北のどこかの山で初雪がと言っていたことを思い出した。

国道を走っていたときになんとなく惹かれた古民家造りのお蕎麦屋さんに立ち寄ることにした。
少し早い時間のせいか、私達しか客がいない。

オーダーをとってくれたおばあちゃんが、どこから来たの? と人懐っこい笑顔で尋ねてくる。

「仙台からです」
「仙台? 私も生まれは仙台なんだよ」
「えっ、そうなんですか。じゃあ、ご結婚でこちらに来られたんですか?」

おばあちゃんは首を振る。
山形市内に嫁いだのだけど、急に旦那さんが蕎麦屋を始めたいとこの地に越して来たそうだ。

「ここのお水や空気がね、蕎麦にあうって主人がこだわってね。私は田舎には行きたくないから、反対したんだけどね。まあ着いていくしかなかったわけさ」
カラカラ笑う。
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