甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

旅館に着き、案内された部屋は、二間続きの和室だった。奥にゆったりくつろげそうなリクライニングの椅子があり、ガラス窓いっぱいに海が広がっていた。
薄暗くなっていく空とオレンジ色の夕日が溶け込んで、規律正しい波紋が揺れる。

想像以上に綺麗だったのでつい「すごい。広い。綺麗」と子供のようにはしゃいでしまった。
お茶を淹れてくれた仲居さんを見送ると「まだ夕飯には時間があるな」と顕は時計を気にした。
「あ、お風呂入りたいです」と挙手する。
「それもいいかもな」と見た先は部屋の露店風呂で、仕切りはガラス窓一枚だ。

これは一緒に入るということでしょうか?
まだ羞恥心と覚悟が決まっていなかった私は、「あ、私は後でいいや。どうぞお先に」とつい断りを入れてしまった。
どうやら裸を見られたくないというのが顔に出ていたのか「一緒に入るか」と顕は少し意地悪そうな顔で尋ねるが、首を振る。
「どうぞ、お先に」
「まあ、後で一人で入るにしても、ここから丸見えだけどな」
「だよね。逃げ場がないよね」と本音が漏れる。

顕は一瞬、睨むと、はぁとわざとらしい溜め息を吐いてから立ち上がった。
「俺は大浴場の方に行くから、ここでゆっくりしてろ」
「あ……」
これで良かったのかなと自分の選択肢に自信がなくなる。
ここはもう一緒に入ってしまえば良かったのかもしれない。
雰囲気、台無しにしてしまったかもしれない。

だけど、顕はポンと私の頭を撫でた後、
「ああ、早く抱きてーな」
とだけ呟いて出ていくので、湯の恵みを感じながら、しばらくドキドキにくすぐられ続けていた。
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