甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「えっ? それって、付き合ってたって事?」
「まさか。ただ、随分前に告白されて断ったことがあるだけだよ」
「……ええっ?」
「それだけだ」
「それだけだじゃないですよ。え、私、なんにも知らないで若槻に顕と付き合ったとか報告しちゃったじゃん! めちゃくちゃ無神経なことしてた」
「だから、昔だ、昔。今はあいつだって別に好きな奴がいるし、終わったことだろ」
「そうだけど……いつ頃の話なの?」
「俺が婚約破棄された後だっけな。ずっと好きだったと言われた」

姉の婚約者をずっと好きだった。急に切なくなって、全身の熱が冷めていくようだった。

「真唯子?」
「あ、えっと、じゃあその後は……」
たどたどしく尋ねる。知りたいようで知りたくない。
「連絡もとっていなかったよ。俺がこっちに戻ってきてから、偶然、会社で再会したわけだ」
「そのときは何もなかったの?」
「………」
「あったんだ」
「あったというか。一度、今の婚約者のことで相談を持ち掛けられたときがあったんだよ。なんとなく昔のよしみというか、ほっとけない様な気になって、まあ飯食いながら話を聞いたんだ」

人の相談事なんてくだらないとか私に言っていたのに、若槻の話は聞いたんだ。そう思うと胸が塞がれたように苦しくなる。ほっとけないとはどういう感情を言うんだろう。

野良猫を構いたくなるようなものなら、そのうち愛着が湧いて触れたくなってしまう。
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