甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「少し酔ってたせいもあったんだろ。別れ際、そのときにもまだ俺の事が好きなのかもとか言われた。でも、それは聞かなかったことにして家に帰したよ」

そこで以前華さんが言っていた、昔の恋をぶり返しそうになったという話の意味がわかった。
若槻の顕に対する気持ちだったんだ。

「でも、あいつはこれから結婚するし、俺は真唯子が好きだし、なんの問題もないだろ」
「……そうだけど」

隠されていたように感じて、それをとっても責めたくなった。

「じゃあさ、なんで黙っていたの?」
「黙っていたっていうか、別に言う必要もなかったし」
「でも教えてほしかった」

言えないのはやましさがあるからでしょ? と言いたくなって堪えた。

「真唯子がそう思ってるところまで、俺はくみ取れない」
「………」

それはそうだ。教えてほしかったなんて、その事実さえ知らなかったくせに求めるのはおかしい。顕はいつも正しい。間違ってない。だけど、たまに苦しくなる。
気持ちの落としどころがわからなくて、唇をぎゅっと強く結んだ。

「ただ隠されてた感じがして、それが嫌だったの!」

私は勢いよく立ち上がると、隣に続く襖を思い切り閉めた。開けようとする気配を感じて
「ごめん。ちょっとだけ一人にさせて」
そう言うと返事はなく静まった。私はそのまま三角座りをして膝を抱えた。
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