甘いだけの恋なら自分でどうにかしている



朝になる。まだ隣で顕は寝息をたてていた。昨日の幸せの余韻が体に残っていて、なんだかくすぐったい。

寝顔が可愛いくて、しばらく眺めてから、部屋の露天風呂へ向かった。夜は見えなかったけど、ここから海が見えて本当に見晴らしがいい。

目をつむって心地よさを味わっていると「朝風呂か」と顕の声がして驚いた。

「ぎゃっ」と反射的に身体を縮こませ隠す。
「何隠してんだよ」
「いや、だって」とまごまごしてから、「顕も入る?」と誘った。
「今、入ったら襲いそうだからやめておく」
「襲うって、別に襲ってもいいですけど」と答えると目を丸くしてから、柔らかい顔つきになった。

だけど、私のちょっとした期待には答えず、岩に腰かけると海の方に目をやる。

「気持ちいいな」
「そうだね」
「顕の実家も確か海近いんだよね。顕の生まれ育ったところ、行ってみたいな。私、好きになれる自信あるよ」
「なんだよ、その自信」
「ふふふ。そういえば、顕って元ヤンなの?」
「はっ? なんだその質問は」
「いや会社で、そういう噂があったなぁって思い出して。あ、私が言ったんじゃないよ」
「ヤンキーなわけねーだろ。なんでそんな噂が立つんだか」
やれやれと呆れているけど。
「いや口の悪さと目つきの悪さが彷彿させるのだと」
じっと睨まれた。
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